偶然の旅人

2016年春の話だ。

たまたま知人と飲んだ。
私はたまたまその時、人を雇おうと思っていた。そのことを何の気なしに知人に話した。
そして、たまたまその頃、知人の知り合いが会社をやめたがっていた。
その話をした直後、熊本で大きな地震が発生した。
私が住んでいた福岡も揺れて、電車が止まりタクシーは全然捕まらなかったのを覚えている。
数日後、知人の知り合いと面接を行い、当社の社員第一号として採用することにした。

たまたま、とある税理士法人の社員が新聞で震災関連の補助金の記事を見かけて、熊本のクライアントにそれを伝えた。
そのクライアントが興味を持ったが、税理士法人は補助金支援の経験がなかった。
税理士法人はとパートナーであった大企業に相談した。

私の高校時代の友人が、たまたまその大企業に勤めていた。
友人と私は直前の帰省時に偶然地元で会い、お互いの仕事を伝えていた。
税理士法人から相談を受けた友人は、私を紹介した。

私はその時、たまたま仕事がそれほど忙しくなく、余裕があった。
そして、人を雇ったばかりだった。
その雇った人は、ものすごく有能だった。
大企業や大手税理士法人が躊躇するような仕事をやれてしまうほどに。
性格も良く、気持ちよく一緒に仕事をすることができた。

当社はその頃は、今よりももっと小さい会社だったが、
私が中小企業診断士という公的資格を持っていたためか、
大手企業からも信頼が得られ、スムーズに事業を進めることができた。

この仕事により、非常に大きな売上を得ることができた。
将来に向けた設備や人材に投資できるほどの。

そして、今に至る。もちろんこれだけが要因ではないけれど、
それでもこの2016年に、「たまたま」発生した出来事のピースが一つでも欠けていたら、今私はここにいないと思う。

知人と飲んでいなかったら、社員を採用してなかったら、高校時代の友人に仕事の話をしてなかったら、
税理士法人の社員が新聞を読まなかったら、そのことをクライアントに伝えなかったら、私の友人に相談しなかったら、
社員が他の人だったら、私が中小企業診断士の資格を持ってなかったら。

私は今も、あの頃借りていた10坪の事務所で、一人で仕事をしていたかもしれない。

関連記事

  1. ディスコミュニケーション

    私の人生は、誰かの生活をただ眺めるためにあるのではない

  2. 所詮はゲームなのだから

  3. ついてない人間、ついてない場所

  4. 触れる時間が長いものにはお金をかける

  5. あの頃よりはマシ

  6. 経営者になりたかっただけ

最近の記事

  1. 2024.05.14

    写真修行
  2. レール、分かれ道
  3. 2024.05.07

    穏やかなるGW
  4. 2024.04.26

    世間の評価

読書記録(ブクログ)