ナッジという言葉を聞いたことがあるだろうか?
ナッジとは
ナッジの定義は「選択肢を制限することなしに他人の行動の修正を促す手法」だ。
語源は英語の”Nudge”(ちょっと押す、こづくといった意味)から来ている。
もちろん脅しや暴力を用いて言うことを聞かせるわけではない。
相手は「この選択肢は自分で選んだ」と思っているのに、実はこちらが望んだ答えを選んでしまっている。
また、まったく無意識のうちにそうしてしまっていることもある。
人間は「自分の行動は全て自分の意志で選んでいる」と思いがちだ。
しかし、実際の人間はたやすく状況に流されてしまう。
うまい具合にナッジの仕組みをつくってあげれば、人の選択をコントロールするのは意外にたやすいのだ。
今回から数回に分けてナッジのテクニックを解説する。
デフォルト(初期設定)
人間の「現状を維持したいと強く思っており、現状の変更はそれが良いものであれ悪いものであれ極力避ける」傾向のことを、心理学の用語で「現状維持バイアス」と言う。
初期設定の力はあなどれない。
読者の方は普段パソコンやスマートフォンを使っているだろう。
パソコンの設定、たとえば画面のサイズや日本語変換ソフトの設定を変更するだけで使いやすさは格段に上がる。
インターネットを見るためのソフトも、最初からインストールされている「インターネットエクスプローラー」ではなく、「グーグルクローム」というソフトの方がスピードも速く使いやすい。
なのに、ほとんどの人は初期設定のまま使い続けてしまう。
なぜなら、人間には「現状維持バイアス」が存在し、初期設定を変えるのが面倒と思ってしまうからだ。
たとえ、設定変更に十数秒しかかからないとしても。
そしてこのデフォルト設定の力は、いい方向にも使える。
たとえば臓器の提供意志を表明するドナーカードがそうだ。
移植を希望する人を増やしたいのであれば、初期設定を「移植を希望する」として、移植を希望しない人のみ「移植を希望しない」の選択肢にマルを付けるような書き方にすればいい。
人は初期設定を変えるのが面倒なので、あまり考えずに「移植を希望する」を選ぶ(つまり、初期設定のままにする)だろう。
クレジットカードの初年度無料キャンペーンもそうだ。
無料ということでひとたび入会してしまえば、そのカードを持っている事が「初期設定」となる。
一年後、クレジットカードの年会費を支払うタイミングがきたとき、人間は初期設定を変えるのが面倒なのでそのまま年会費を支払ってしまう。
年金制度もそうだ。本来、老後の資金は自分で計画的に貯蓄するものだが、それをできる自制心の強い人間ばかりではない。
初期設定として「国が強制的に徴収し運用、分配する」現在の制度は、ナッジの観点からは極めて有効だ。