人は理由を求める。理由がわからなければ不安な気持ちが解消されない。
殺人事件が発生した場合、本当の理由はともかく犯人の生育環境や疾患、「心の闇」といった言葉で世間は納得する。
昔であれば、地震や津波といった災害に理由をつけるために神や妖怪が持ち出されていた。
理由が何かは問われない
とにかく理由があればよい。内容はあまり問われないようだ。
ハーバード大学心理学教授のエレン・ランガーは以下の調査を行った。
場所はニューヨーク市立大学大学院センター。
実験者はコピー機の近くに座っており、誰かがコピー機を使おうとしたら声をかける。
声のかけ方は、3パターン(説明)と2パターン(コピー枚数)の組み合わせで、合計6通り。
■説明の3パターン
- コピー機を使わせてください(要求のみ)
- コピーを取りたいので、コピー機を使わせてください(理由になっていない理由をつけた要求)
- 急いでいるので、コピー機を使わせてください(理由をつけた要求)
「急いでいるので」というのが理由になるのかどうかは疑問だが、
とにかくこのような実験だった。
■コピー枚数の2パターン
- 5枚(少量)
- 20枚(大量)
依頼に応じてくれた方、つまりコピー機の順番を譲ってくれた方の比率は以下の通りだ。
コピー枚数が少ない(5枚)の場合、半分以上の方が理由がなくても要求に応じてくれるが、20枚の依頼だと24%に落ちる。(それだけ自分のコピーの順番が遅れるので当然だ)
驚くのは、5枚の場合には「コピーを取りたいのでコピーさせてくれ」といった、意味のない理由をつけた要求をおこなっても93%の方が応じてくれることだ。
また、「急いでいるので」と、きちんとした?理由をつけた場合でも応じてくれる人の比率はたいして変わらない。5枚コピーという負荷の低い要求であれば、理由を説明すればそれでよく、その内容はあまり関係がないことがわかる。
コピー20枚という負荷の高い要求を行う場合は、きちんとした理由があれば42%の方が承諾、いっぽう、要求のみ、意味のない理由をつけた要求の場合は24%と承諾率が落ちる。
常に理由を説明する姿勢を持つ
コピー機の実験からわかるように、人は理由を説明すれば納得し行動を変えてくれる。
それほど手間のかからない要求であれば、その理由は何でも良い。
理由を話すだけで相手がなんとなく納得し、その内容は問われないとすれば、どんなことでも相手に対して積極的に説明をするべきだ。
「とにかくやれ」と部下や取引先に要求することが、いかに愚かな行為かというのがよくわかる。