「なぜあんなおとなしい人が横領なんて」
「痴漢で今の地位を失うなんて、なぜ・・・」
端から見ていると不可解な不祥事が起きることがある。
どうかんがえてもコストとメリットが引き合わない。発覚したときのリスクがでかすぎる。
「不正のトライアングル」という概念がある。
「機会」「動機」「正当化」の3つの条件が満たされた時、人が不正を働く可能性が高まる、という考え方だ。
たとえば、会社のお金を横領するケースを考えて見よう。
機会
「機会」とは、ここでは、不正行為をやろうと思えばいつでもできるような環境を指す。
会社の金庫や通帳がきちんと管理されていない。自分以外に誰もチェックする人間がいない、
経理処理がずさんである、などが、横領の「機会」を与える。
動機
「動機」とは、不正をおかす理由を指す。
たとえば借金の返済に追われている、
欲しいものがあるが自分の手持ち資金では購入できないなどだ。
ギャンブルや愛人につぎ込む資金が欲しい、という動機もあり得る。
反対に、資金に余裕のある社員は、横領などに手を染めないだろう。
リスクを取る動機に乏しいからだ。
正当化
横領は犯罪であり、通常の心理状態であれば実行することは難しい。良心の呵責があるからだ。
一線を越えるためには、何らかの「正当化」が必要になる。
「社長は自分ばかり儲けている、従業員である私にも少しくらい分け前が必要だ」
「横領した金は、次のレースで万馬券をあてればすぐに返却する、これは一時的に借りるだけだ」
などと、多少こじつけでもいいので自分を正当化し、良心の呵責を乗り越える。
オレオレ詐欺などに手を染めるメンバーは、
「高齢者から金を奪い、若者である自分達がそれを使うことで、
世代間格差を平準化するし、消費により経済活動を活発化している善行だ。」と思っているとか。
満員電車での痴漢に当てはめると
「満員電車での痴漢」のケースで言えば、
「機会」は女性と密着し、逃げられない環境、
「動機」は性欲や支配欲、ストレス解消、アルコールによる酩酊、
「正当化」は、こんな露出の高い格好をしている女性は私を誘っている、という身勝手な理屈。
こうして不正のトライアングルが完成し、痴漢行為の実行に至るのだろう。
3条件が成立しにくい仕組みを作る
誤解しないで欲しいのは、「機会」「動機」「正当化」の3条件が揃えば誰でも不正に手を染める、と言っているのではない。
その可能性が高まる、というだけであり、条件が揃っても不正行為を行なわない人がほとんどだとは思う。
ただ、人間は弱い。特に疲れていたり、悩んでいる環境ではどんなに意志の強い人間でも誘惑に勝てなくなる一瞬がある。
人間は弱いという前提でシステムを構築するのであれば、
「機会」「動機」「正当化」の条件が成立しにくくなるような仕組みを作った方がよいだろう。
「機会」のコントロール
つまり、不正を起こさせないためには、「機会」「動機」「正当化」の3条件を揃わせないことが重要となる。
横領のケースで言えば、資金管理を厳重に行い「機会」を最小限にする。
「動機」は個人のプライベートに係わる問題なので、昔の企業ならいざしらず現代においては積極的な干渉はできない。
「正当化」については、社長が清廉潔白であれば回避できる、というものでもない。人は「動機」があれば、どんな無茶な理由でもこしらえて自分を「正当化」するものだ。頭が良い人ほど、もっともらしい理屈を構築できるだろう。
「動機」と「正当化」は個人に係わる問題であり、コントロールはできないと考える。
できるのは「機会」、つまり、環境とルールの整備だけだ。
「機会」を減らそうとすれば、社内の業務プロセスが煩雑になってしまうのは避けられない。
大企業の手続きの煩雑さを批判する人は、中小企業が不正が起きる可能性を無視しリスクを取りながら運営しているだけなのに、それを「効率的」だと誤解していることに気づいていない。