「認められたい」承認欲求のメリットとデメリット(2)

(前回の続き)

承認の過剰

承認が不足することも問題だが、過剰な承認もまた問題となる。
周囲の期待に応えよう、失敗は許されないと無理を続け、精神を病んでしまう会社員の話は珍しくない。
ある企業では、表彰された優秀な社員がその期待に耐えられず次々と退職したそうだ。

人は一度承認をされ、ある程度の地位につけば、それを失うことを極端に恐れるようになる。
「保有効果」と呼ばれるが、人は手にしたものの価値を過大に感じる傾向があり、一度得た承認を捨てることはとても難しい。
本来承認というのは行動の結果として与えられるものなのに、得た承認を維持することが目的化してしまうのだ。

承認欲求をうまく飼い慣らす方法

承認欲求を満たすことは人生を豊かにするが、やりすぎるとかえって人生を破壊することになる。
個々人の人生がどうなるかはそれぞれの自由な選択の結果だが、会社組織としてはそう達観もできない。
では、組織として承認欲求をうまく飼い慣らすにはどうしたらいいだろうか?

ひとつは承認の際、将来に過剰な期待をしないこと。
褒めるのはあくまで現在もしくは過去に結果を出したことに留め、「今後の頑張りに期待しているよ」とは言わないことだ。
これで、期待に潰される事態を減らせる。

他には、笑いを交えて、深刻な雰囲気を出さないことも役に立つ。
また、「希望降格制度」などを設けて、自分の実力以上に評価された際に名誉を傷つけずに後戻りする機会を与えること、
主観的な評価をやめ、客観的な、だれでも検証できる評価制度を作ることなども承認欲求の呪縛を緩和する効果がある。

きちんと金銭で報いるという方法もある。
お金で解決すると言えば聞こえは悪いが、対価を払えば、心理的な負い目や承認の不足といった不満を持つことはない。
ブラック企業がそう呼ばれるのは、労働に見合った対価を払っていないからだ。

社会学者のG・ジンメルは、「金銭には人間を人格的な服従から解放する機能がある」と言ったそうだ。
お金をもらえばそれは労働だが、もらえなければ奴隷である。

最後に

人は承認を求める生き物であり、ときには経済的な利益よりも承認を優先することすらある。
どう考えても損をするのにも関わらず、プライドや名誉のために損得度外視で何かをやるのも承認欲求の強さゆえだ。
マズローが言う、承認欲求のもう一段上の「自己実現」段階まで行けば承認欲求は無くなるのかもしれないが、そこまで行ける人はごく僅かだろう。

我々は、承認欲求の存在を認めつつ、それが不足したり暴走することのないような環境を、組織や家庭で丁寧に作っていくしかないようだ。

参考書籍:「承認欲求の呪縛」太田肇著、新潮新書

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