もう15年以上も昔、サラリーマン時代に勤めていたとある企業は毎年「今年のテーマ」なるものを設定していた。
どんなものだったかうろ覚えだ。おそらく、「前進」とか「飛躍」とか、そんなのだったのではないか。
その後、色々あって自分が社長になってしまった。
当社には経営理念はない。今年のテーマのようなものもない。
いろんな人からそういったものを作った方がいいと言われる。その方が上手く行くよと。
ただ、私は中小企業診断士としてたくさんの企業に関わってきた経験上、知っている。
理想を高く掲げたが破産した企業も。
金持ちになりたいという動機で成功したケースも。
かつて、「利益率の高い企業は経営理念を策定している割合が高かった」という調査結果を見たことがあるが、
よくある相関関係と因果関係の誤解のようにも思う。
穿った見方をするようだが、低い割合ながらも経営理念なしで利益率の高い企業だって存在しているわけだ。
経営理念を定めることの弊害もあると思う。
理念に縛られて、本来やった方がいいこともできなくなる。
理念を守り成功すれば「信念」と呼ばれる。失敗すれば「頭が堅い」「愚かだ」と言われる。
とどのつまり、結果で判断されるのだ。
以前、採用面接に来た方から経営理念のようなものは無いのかと問われたことがある。
こう回答したように記憶している。
「そんなものは無いですね。強いて言うなら「できるだけラクをする」ですかね」
呆れられたかもしれない。でも、本当にないのだ。
#念の為申し添えると、「戦略」や「作戦」、「戦術」は結構緻密に考えている。
毎年のテーマもない。1年間、当初想定した通りに外部環境が変化しないとはとても思えない。
「前進」と言うテーマを2020年1月に設定していたとして、コロナ禍が始まった4月以降もその企業は「前進」し続けただろうか。
それともテーマを「後退」とか「防御」に変えた?
本来なら経営理念を作ることを薦めるのが中小企業診断士の役割だろうと思うが、
自分が経営者をしているせいか、どうしても綺麗事に聞こえてしまう。
企業は利益を得るための団体であり、慈善団体でも教育団体でも啓蒙団体でもない。
眩しく輝く理想に目が眩んで、企業としての決断を間違ってしまいたくはない。
この件についてはまだ結論は出ていないので、どこかのタイミングで「経営理念は決めるべき!テーマは毎年設定しよう!」となる可能性はある。
それもまた「状況が変化したのでそれに対応している」のにすぎないのだろう。