さて、多くの人が、今度の戦争でだまされていたという。
みながみな口を揃えてだまされていたという。
ではおれがだましたのだといつた人間はまだ一人もいない。ー 伊丹万作「戦争責任者の問題」より
俺が騙した、と考える人間はいない。
誰かの責任にした方が、自分には責任がないと考えた方が、楽だから。
人々はマスコミに騙されたという。
マスコミは専門家に騙されたという。
専門家は政府に騙されたという。
政府は議会の、議会は人々の声に応えただけだという。
当初から「これはおかしい」と主張し、非国民だ、公衆の敵と排斥されていた人間は、
「騙された」と自己弁護を始める人々を醒めた目で眺めている。