書評「ストーリーとしての競争戦略:楠木健」

本稿は、昨年の冬に中小企業診断協会福岡県支部の会報用に書いたものです。読み返してみると、あまり本の内容には触れていないですね・・・books


「戦略の神髄は、思わず人に話したくなるような面白いストーリーにあるー」本書の帯にはこう書かれている。

この本、売れに売れているようで、本稿執筆時点で、アマゾンでのランキング66位である。ビジネス書で、ではない。アマゾン全体でのランキングでである。実に売れている。

推測に過ぎないが、経営者の方も結構読まれているのではないだろうか。我々経営コンサルタントは言わずもがなである。

著者は、戦略とはつまるところ「違いをつくって、つなげる」ことだと喝破する。

この主張自体は得に目新しくはなく、古くは1956年にMITのジェイ・フォレスターが開発した「システムダイナミクス」や、それのサブセットである「システム思考」などに同じ主張が見られる。(※1)

※1 システム思考については、「システム思考 複雑な問題の解決技法」ジョン・D・スターマン著が日本語で読める書籍として一番詳しい。入門編としてであれば、「学習する組織」ピーター・センゲ著がお勧め。

また、財務指標を最終ゴールとして個別の施策のつながりを図示する「戦略マップ」を利用するバランススコアカードの手法もこれに近いことをやっているだろう。


要素間の「つながり」や「全体」を重視するというのは、非常に「東洋的」な思想であり、我々日本人にはなじみが深く理解しやすい概念ではないだろうか。

読破した後、考えたのは、「論理思考、合理的思考の限界」である。

実際の現場では、論理思考で細分化を繰り返した結果導き出された各施策を提案していては、あまりにもありきたりな結論しか出てこないことがしばしばある。

「分かる」とは「分ける(分割する)」ということで、デカルト曰く「困難は分割せよ」というのは一面の真実であり、それが科学を進歩させてきたことは疑いの余地がない。

しかし、経営という多様なパラメータを持つやっかいなものをコントロールするためには、合理的思考だけではなく、それを超えた「何か」が必要で、それは著者のいう「綜合(シンセシス)」であったり、システム思考で言うところの「ループ図」であったりするのだろう。


もう一つ考えたのは、「経営学というのは、科学なのか、それとも歴史学なのか?」ということだ。

優れた戦略(ストーリー)というのは、成功した現在から過去を振り返って見るから「優れている」ように見えるのであって、理由は後付けに過ぎないのではないか?という疑問である。(※2)

※2 このテーマについては「なぜビジネス書は間違うのか ハロー効果という妄想」フィル・ローゼンツワイグ著が秀逸。ある企業を賛美していた学者が、数年後その企業が落ち目になると如何に手のひらを返すかがよくわかる。

この点については著者も文中で言及しているが、「最初からストーリーが全てできあがっていた訳ではないが、優れた経営者はごく初期からストーリーの大枠を作っている」という著者の主張も、成功者のみをサンプリングしているからそう思うだけではないかと疑念を持ってしまう。

おそらく、ストーリーの大枠を作成した上で失敗し表舞台から消えた経営者も大量に存在するだろう。

経営というのは自然科学と違って一定の条件下で必ず同じ結果を返すようなものではない。故に、優れた経営学者や経営コンサルタントが、イコール優れた経営者ではない。

とすれば、経営学というのは、単に過去の成功事例を集めたショーケースに過ぎず、そこから学べることは、まったくないとは言わないが、たいしたものではないのではないだろうか。人が歴史から何も学べないように。


戦略に限らず、すぐれたストーリーテラー(語り部)の手に掛かるとあらゆる「ストーリー」が輝き出す。

これは文章もそうだし、プレゼンテーションにおいてはさらに顕著である。

同じ材料を与えられても、よいストーリーテラーは、受け手の心により深く刺さる「ものがたり」(あえてストーリーではなく、ものがたりと書く)を語ることができる。

人類は、古来から「ものがたり」の形で連綿と知恵を伝えてきた。最古の「ものがたり」といえば「神話」であり、神話には人間の心に深く刺さる「ものがたり」の原型がある。

自身がよりよい「ストーリーテラー」となるために、この春、神話を改めて読み直してみようと思う(※3)

※3 神話の体系的な分析といえば「千の顔を持つ英雄 上下巻」ジョーゼフ・キャンベル著が名作。軽い物なら、同じくジョーゼフ・キャンベル著の「神話の力」が対談形式で読みやすい。

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