お前が決めるな

あるクライアントでのお話。特定されないように事実を多少改変しています。

その会社は仕事が忙しく、従業員も残業続き。
心優しい社長はなんとか業務効率化ができないものかとアタマを悩ましておりました。
この会社には、コンサル会社での勤務経験もある専務がいます。
社長がアタマを下げて招聘した有能な男です。
社長は新しいものが好きで、ネットや雑誌で最新の効率化ツールを見つけては、専務に相談します。
専務はいつもこういいます。「従業員のレベルが低いから、こんな高度なツールを導入しても使いこなせるわけがない、費用の無駄に終わるだけです。」と。
有能な専務から見れば、従業員たちが無能で怠惰に見えるのも無理はありません。

ーーー

ある公的機関の紹介を受けて、この会社に私が専門家派遣で伺いました。社長と専務が対応してくれました。
専務は従業員のレベルの低さを嘆き、新しいツールを導入しようもんなら社内が混乱するだけだし、いらないことをしてくれたと社長が嫌われるだけですよと主張します。
「で、何を導入しようとしていたんですか?」聞くと、私も知っているクラウドツール。
確かにとっつきにくくはありますが、日本の会社が運営していることもありマニュアルなども充実、決して「高度」とは言えないように思います。
イニシャルコストもそれほどかからないので、仮に導入に失敗しても金銭的なリスクは軽微。

私はこう伝えました。
たしかに最初は混乱するかもしれない。
でもそれはどんなツールを導入しても同じだ。
きちんと業務分析を行った上で適切なツールを入れれば、1ヶ月もすれば誰もが使いこなせるようになる。
以前より業務が効率化できたならば、皆はそれに慣れてしまい、むしろ以前はなんて非効率なことをしてたんだと豹変するだろう。
そんな事例をたくさん見て来ましたよ。

社長は「我が意を得たり」という顔だったが、専務は納得いかないようだ。
私はさらに、ちょっとだけくさすように言った。

(経営陣が)従業員の能力の限界を規定してたら、事業の成長はないですよ。
まずは現場のスタッフの声を聞いてみたらどうですか?

ーーー

社長は現場のリーダーに確認した。彼は決してITリテラシが高いとは言えなかったけれど、「業務が楽になるのならばがんばって勉強する」と言ってくれた。
導入して1ヶ月。当初は混乱もあったが、皆ツールを使いこなし、業務は大幅に効率化された。何人かはこうぼやいた。

「なんで今まであんな非効率なやり方を続けていたんだろう?」

ーーー

専務は専務なりにスタッフを気遣い、無用な混乱を避けるために現状維持を指向したのだと思う。
問題なのは、それを当事者に確認せずに勝手に決めてしまっていたこと。
そして、社長の提案に反対するものの、業務効率化という課題に対する他の案を出さなかったこと。

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