その業を引き受けて

大学時代に、交通量調査のバイトをしていた。
交差点で椅子に座ってカウンターをひたすらカチカチしているあれだ。
あるとき、食肉処理場に出入りするトラックの数を数えるという仕事があった。
バイト仲間はやりたくないらしく、私が引き受けた。

トラックにはもちろん、豚がたくさん乗っている。表情も見える、けっこうかわいい。
私は入り口をトラックが通過するたびにカウンターをカチッと一回押す。
入り口からは処理場の搬入口が見える。豚はそこから処理場の中に運ばれていく。
数十分経つと、豚の悲鳴が聞こえる。悲鳴なのかはわからないが、悲しそうな鳴き声が聞こえる。
ぶら下がった豚の死体もちょっとだけ見えた。

バイトは夕方に終わった。その後、カツ丼を食べに行った。
あえて今日は豚肉を食べるべきだと思った。
自分が生きている上で犠牲にしている生き物のことを考えて、その「業」を意識しないといけない、そこを誤魔化してはいけないと考えた。
いつもより美味しくない気がしたが、残さず最後まで食べた。

今も豚肉は大好きだ。関係者と豚に感謝しながら、自分の業を引き受けながら、美味しくいただいている。

関連記事

  1. 参拝。神に願うのではなく、自身を振り返る時間

  2. 6/2〜6/7 臨時休業のお知らせ

  3. 正当化のためなら

  4. 進化は偶然に

  5. 偶然の旅人

  6. 主人公ではなかった

最近の記事

  1. 2024.04.26

    世間の評価
  2. バックアップ、プランB

    2024.04.23

    雨が降っても
  3. 2024.04.15

    メンテナンス

読書記録(ブクログ)