仕事をする際、集中しているかいないかは重要だ。
集中していれば、短時間で効率的に仕事を片付けることができる。
反対に、集中していなければ、つい脱線してしまったり処理速度が遅かったりで、いくら時間があっても仕事がぜんぜん前に進まない。
今回は、集中状態をつくるための「フロー理論」について説明する。
フロー理論とは、心理学者のミハイ・チクセントミハイによって提唱された概念で、人間がそのときしていることに、完全に浸り、精力的に集中している状態をいう。
スポーツ分野では「ゾーン」と呼ばれることもある。
「人間がそのときしていること」というのは、仕事でも趣味でも何でも構わない。
フロー理論のことは聴いたことがなくても、なんだかわからないが恐ろしいほどに集中した状態を経験したことはないだろうか?
短時間で資料を仕上げたり、周りの声が耳にはいらなくなったり、時間の感覚がおかしくなったり・・・・それがフロー状態である。
ロッククライミングやダンスといったスポーツに集中している際に、フロー状態が多く観察されるそうだ。
もちろん仕事でもフロー状態に入ることはできる。
フロー状態になるためにはいくつかの条件がある。
- 達成できる見通しのある課題に取り組んでいる
- 自分のしていることに集中できる
- 行われている作業に明確な目標がある
- 直接的なフィードバックがある
- 自分の行為をコントロールできている
順番に見ていこう。
1.達成できる見通しのある課題に取り組んでいる
捕虜や囚人を精神的に追い詰める方法として、地面に穴を掘らせてそれを自分で埋めさせるという行為を延々と続けるというのがあるらしい。
人間は意味のない事を続けることが苦手で、どんなに努力しても達成できる見通しのない課題に集中して取り組むことは非常に難しい。
フロー状態になるためには、その課題が「達成できる見通しのある」ものでなければならない。
たとえば国家資格の合格など、課題が大きすぎて達成が難しいものであれば、合格までの過程に複数の小さなゴールを設けて、その小さなゴールを当面の課題として取り組んだ方が、結果として最終ゴールに早く到達できる。
2.自分のしていることに集中できる
外線電話がひっきりなしにかかってきたり、隣の席の同僚から30分に一度話しかけられるような状況では集中は難しい。
職場の都合上、なかなか難しい方もいるとは思うけれど、早朝出勤する、会議室にこもるなどして集中できる環境を整備しよう。
スマートフォンの着信音やバイブ機能もオフにした方がよい。
3.行われている作業に明確な目標がある
たとえば、「英語が上達する」というのは明確な目標ではない。
この目標を掲げて勉強したとしてもたいして成果は得られないだろう。
より具体的な目標、TOEICの合格であるとか、半年後にひとりで海外旅行に行くといった明確な目標の設定が望ましい。
4.直接的なフィードバックがある
いくらがんばったとしても、その結果がわかるのが3年後だったらあなたはやりがいを感じるだろうか。
自分がした行為に関して、すぐに直接的な反応(フィードバック)が返ってくる方がよい。
3年後の昇進試験を目指して勉強するよりも、目の前の仕事で成果をあげる努力の方がフロー状態になりやすい。
5.自分の行為をコントロールできている
上司の気分や謎の理由によって仕事の内容が二転三転するような環境ではフロー状態に入るのは難しい。自分がやっていることをしっかりと自分でコントロールできているという感情が大事だ。
フロー状態では、自分についての意識は消失する。
若干宗教的ではあるが、自然や仲間、会社の一部であるという感覚がもたらされる。
名声や金のためといった自分のエゴが消え、目の前の出来事に集中できる。
時間の経過の感覚も通常とはおおきく異なっている。
フロー状態では、数時間が数分のように感じられる。
逆に、数分が数時間に延びたように感じられることもある。
スキルとチャレンジのバランス
フロー理論に入るために重要なのは、「スキル(自分や会社の能力)」と「チャレンジ(仕事の難易度)」とのバランスである。(図1)
チャレンジのレベルが高く、自分の能力(スキル)を超えている場合、人はそのチャレンジを諦めてしまう。
逆に、チャレンジのレベルが低すぎて自分の能力(スキル)であれば難なくそれをやれてしまう場合、人はそのチャレンジに飽きてしまう。
集中して仕事を行える状態(フロー)のためには、このスキルとチャレンジのレベルが釣り合うエリアを探し、なるべくそのエリアに留まることができるように常に調整することが重要になる。
たとえば、簡単すぎる仕事でやる気がでない場合は、時間制限を設ける、普段とは違うアプローチで仕事をしてみるといった対処が考えられる。
逆に、仕事が難しすぎてあきらめムードになっている場合は、仕事を達成可能な範囲で小さく分割して取り組む、遠回りになったとしてもできるところから取り組む、といった対処が有効だ。
フロー状態がそんなに良いものなのであれば、仕事中ずっとフロー状態にできれば理想ではないか?と考える人もいるかもしれない。
しかし、それではすぐに疲れてしまうだろう。
ここぞという時にがっつりと集中できるよう、いつでもフロー状態になれる準備だけは怠らないようにしたい。
筆者は30歳前後の頃にフロー理論に出会い、大きく感銘を受けた。
筆者が代表取締役を努める株式会社フロウシンクは、このフロー理論から名前を一部拝借している。
幸せの基準は人それぞれで違う。
しかし、仕事やプライベートで多くの「フロー状態」に入ることのできる人生は、きっと幸せなものに違いない。
まずは今、皆さんの目の前にある仕事に必要な「スキル」と「チャレンジ」の度合いを検討して、フロー状態に入れるよう調整するところから始めてみては?
参考書籍:「フロー体験 喜びの現象学」「フロー体験—楽しみと創造の心理学」
いずれも著者はミハイ・チクセントミハイ。出版社は世界思想社