悩んだら、人に聞いてもらうよりまずは書く

「悩みがあるなら、話すだけでもすっきりする」「問題を分け合えば、辛さが半分になる」と言われる。
ある調査によると、90パーセントの人が、不幸な体験をほかの人に話せば気持ちが楽になると考えているそうだ。
筆者も尊敬できる先輩や友人に悩みを打ち明け、相談に乗ってもらって気持ちがすっきりした経験を持っている。
だが、もっと良い方法があるとしたら?

今回は、悩みの解決、不幸な体験の克服といったことに「書く」という行為がどれだけ有効かを説明する。

悩みを「聞いてもらう」ことの効果

不幸を乗り越えるためには、辛さを人と分け合うことが大事だというのは常識だ。
友人や家族、同僚・・自分の悩みを口にして誰かに伝えることで、気持ちが楽になり、気を取り直して前に進むことができるのだ。

世の中にはひねくれた人間がいるもので、ベルギーのルーヴァン大学の心理学者であるエマニュエル・ゼックとベルナール・リメが2005年にこのことを確かめる実験を行った。
内容は以下の通りだ。

参加者たちに自分が体験したイヤな体験の中から、「最も精神的に苦痛だったこと、いまも忘れることができず、人に話す必要を感じる出来事」を選んでもらった。
電車に乗り遅れたなどのささいなことではなく、病気、身近な人との死別、離婚、虐待といった重たいテーマが選ばれた。

半数の参加者には選んでもらった辛い出来事について話してもらい、もう半数の参加者には、ごく普通の典型的な一日について話してもらった。
一週間後と二ヶ月後の二回、参加者全員が研究室に戻り、自分が感じている幸福感についてアンケートに答えた。

自分の酷い体験を実験者に話した人は、話したことが役に立ったと感じていた。
だが、アンケートの結果は違っていた。
話したことで幸福感について何かが変わった形跡はなかったのだ。

参加者は自分のイヤな体験を誰かと分け合うと、気持ちが楽になると考えていたが、実際の幸福度の度合は、イヤな体験を話さずに、平凡な一日について話した人たちと大差がなかった。

この実験結果が意味するのは、「悩み事、イヤな体験を他人に【聞いてもらうだけ】では、本当の意味ではすっきりしない」ということだ。
勘違いしないで欲しいのだが、単に話を聞いてもらうだけでなく、悩み事に対する対処方法や考え方を教えてもらうことには効果がある。
悩みを打ち明ける相手が、その分野の専門家であればさらに効果的だ。
(もし効果がないのだとしたら、経営コンサルタントという筆者の職業は無意味になってしまうだろう。)

悩みを「書く」ことの効果

悩みを聞いてもらうだけでは、すっきりしたように見えて実は幸福感が変わらないとしたら、どうすればいいのだろうか?

紙でもパソコンでもいいが、いまの自分の悩みを「書き出す」ことが悩みの解決に効果的だということが、心理学の別の実験で明らかになっている。

酷い体験をした被験者に、毎日数分で自分の内部にある考えや気持ちを書いてもらう実験をしたところ、被験者の心理面・肉体面ともに大いに効果があった。
健康が回復し、自信や幸福度が増した。

話すことに効果はなかったが、書き出すと効果があるというのはどういうことか?
これは話すことと書くことの違いから来ると考えられる。
話をすると、とりとめがなくなる。
会議の録音を自分で聞いてみるとわかるが、自分では論理的に話しているつもりで、話があちらこちらに飛んだり、同じ話を繰り返したり前後が逆になったりといった具合だ。

一方、文章には筋道や構成があり、できごとを分析・整理し、意味をもたせ、解決に導く力がある。

話すことは混乱をさらに深める可能性があるのに対し、書くことは系統だった問題解決への手段になるということだ。

専門家に相談すれば、この「書く」という行為と同じ結果(分析・整理、意味づけ、解決方法の提案)を得ることができる。
相談の前に自分で紙に書いて状況を整理することで、専門家も短い時間でよりよい解決策を提案することができるようになるだろう。

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