とある会社のエピソード(有能な社員を解雇したら業績が伸びた話)

もうかなり前の話だ。(特定できないように細部は変更している)

とある研修会社のコンサルティングをしていた。
内容としては業務の見える化と営業手法の効率化といったところか。

その会社にはいわゆる「トップセールス」がいた。
営業は3名いたが、トップセールス(仮にA氏としよう)が、売上の6割を稼いでいた。

社長の悩みはそこにあった。A氏には感謝しているが、A氏に依存した営業体制をなんとか見直して、
バランスよく稼げるようにしたいと。
それはそうだろう、今のままでは、A氏が退職したらこの会社は潰れてしまうかもしれない。
A氏もそのことは漠然と理解していたようで、態度がデカくなってきた。日に日に社長の言うことを聞かなくなってきているし、
他の営業部員やバックオフィスのスタッフにも社長の悪口を言っているらしい。

社長と私は、SFA(当時は違う名前だったかもしれない)を導入することにした。
これまでは営業日報はあったが形式的なもので、提出が遅延したり「忙しいから」という理由で出されなかったりしていた。
システムを導入し、日報の徹底、案件情報の共有とチームでの営業を行うとして、私が講師となって説明会を行った。

案の定、A氏からは激しい反発があった。
「そんな暇があれば1秒でもお客様を回るべきだ」「営業ノウハウは職人芸であって文章で記述はできない」
「案件の確度と言われても、それは日々変動するものだ」「社長が管理していると満足したいだけで、実質的なメリットは何もない」
私は一つ一つのクレームに丁寧に反論したが、A氏はそれでも納得がいっていない様子だった。

トップ営業のA氏が、システムにデータを入力しない。社長や私がいくら指導してもやらない。
しまいには退職と独立をチラつかせ、給与アップや特別待遇を求めるようになってきた。

社長と私は本件の対応について話し合い、彼を解雇することに決め、準備を進めた。
A氏は途中で雲行きが悪いことに気付いたのだろう。
自分で会社を立ち上げ、取引先に対して独立後に向けた営業をし始めていたようだ。
顧客から社長への連絡によりそのことが発覚し、社長は激怒、即座に解雇となった。

社長はこれで売上の6割を失うかもしれないと危惧していた。
A氏の顧客は全てA氏が作った新会社に流出するのではないかと。
結果、そのようなことは起きなかった。
おそらく1割程度の流出はあったと思われるが、ほとんどの顧客は残り二人の営業がうまく引き継ぎ、売上はほぼ前年を維持した。
翌年以降は、システム導入の効果が出始めた。新人営業もスムーズに戦力化でき、売上はむしろ上昇した。 

A氏の退職後、A氏が会社に無断で本来有償のサービスを無償で提供していたり、外注業者からキックバックを受け取っていたことが発覚した。
社長は「もういい、関わりたくない」と全てを不問にした。しばらくはA氏の尻拭いで東奔西走していたが・・・・

一人の有能な人物の職人芸に任せることは楽だが、それよりも、
システム化により仕組みを整備した上で、普通の人物にいい仕事をさせる。
その方が長期的には安定した成果が得られる。

この経験は、後日、自分が社長となり人を雇う上で大きな学びとなった。

関連記事

  1. マスクによる平等

  2. たった一つの敗北

  3. 「またやりましょう」と言っていただけるうれしさ

  4. 正義の刃が自分に向けられた時

  5. デジタルで伝える

    回答しやすい「問い」を投げる

  6. 2023福岡モビリティショー

最近の記事

  1. 2024.03.28

    勉強グセ

読書記録(ブクログ)