中小企業診断士のセーフティネット

以前からいろいろなところで言っているのだけれど、中小企業診断士は数多ある士業のなかでも最も「独立しやすい」ものの一つではないかと思っている。
なぜか?セーフティネットがあるからだ。

公的機関の仕事という「安全柵」

商工会や自治体の経営相談関連の仕事は必ずある。あししげくそれらの機関に通えば、何らかの仕事をもらえることがある。
信頼を獲得できれば、週数回などの定期的な勤務も可能だ。
報酬はそれほど高いとは言えない(機関による)が、家族を食べさせるには十分だし、ベースラインの収益が確保できるというのは、自営業にとっては天国だ。
税理士や弁護士など他士業にはこのような仕事はないだろう。(正確にはあるのだが、そのボリュームは少ない)

これらの仕事の良いところは、「営業の必要がない」こと。中小企業の社長が自らこれらの公的機関に相談に赴くので、それに対応することになる。
様々な悩みが持ち込まれるため、自身の勉強・修行にもなるだろう。(なかには、単なる事務処理だけの仕事もあるが・・)
また、報酬は国や県の予算から出るため、社長とお金の話をする必要もない。

もちろん、公的機関の仕事だからって楽勝というわけではない。
全力で取り組み成果をださなければ、次からはお呼びがかからなくなるだけだ。

「安全柵」のなかに居続けるデメリット

しかしこのことは弱点にもなり得る。ずっと公的機関の仕事をしていると、「営業の仕方」が身につかないのだ。
公的機関に一生お世話になるのであればそれでもいいが、いずれ離れ、自営業としてやっていくには致命傷だ。

中小企業に提案をし、仕事の依頼をいただき、卑近な言葉でいえば「財布を開かせる」能力。
これができなくてもなんとか食べていけるのが診断士の魅力なのだが、
逆に言えば、食べて行く以上の売上を上げようと思えばこの能力が必須となる。

紹介できる企業を持たない、若い診断士

私は診断士資格を取るための実習講師の仕事をすることがある。講師は、実習の受け入れ先企業を自分で見つけてこなければならない。
私よりもっと若い(これは年齢だけでなく、診断士としての活動歴も含めて)、講師に適した人材はたくさん居るだろう。
また、正直な話をすれば、講師の一日の報酬では当社スタッフの一日の給料にすらならない。つまり赤字だ。
事務局の方でもそれは理解していて、若い人を講師にアサインしようと方々声を掛けるようなのだけれど、皆「受け入れ先企業を紹介できない」と口を揃えて言い、依頼を断るそうだ。
もちろん彼らは独立している。独立しているけど、クライアントを紹介できないだって?
おそらく「セーフティネット」に安住し、自分の力で顧客を開拓することを怠っているために、「実習生を受け入れてくれ」とお願いできるほどの関係性がある中小企業がないのだろう。

やり方は人それぞれ

それ(公的機関への依存)が悪いとは言わない。仕事が全てではないし、無理してまでお金を稼ぐ必要はない。

独立して数年は、私も公的機関におんぶにだっこだった。安定した収入を確保しつつ、空き時間を利用して顧客を開拓し、今は民間の仕事が9割以上だ。
もし、公的機関の仕事をいただけなかったら、私は最初の数年で独立を断念していたかもしれない。
そう思うと、本当にこの中小企業診断士という資格に助けられているなと、感謝することしきりだ。

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