後輩の教育をする義務

私は同業者向けのセミナーをやらない。
別に狭量なわけじゃない、実際に同業者に仕事を依頼することが多々ある。
ちょうど決算をまとめている最中だけれど、外注費だけでかなりな金額になる。

できるなら、自分でやればいい

ジョージ・バーナード・ショーはこう言った。

「できるものはやる。できないものが教える」
He who can,does. He who cannot, teaches.

その仕事ができるのならば、自分でやればいいだろう。
人に教えて金を取ること自体を仕事とするなら、それは自分でその仕事ができなくなったからに他ならない。
(教えることそのものが職業である、学校教員などはまた別だろうけど)

仕事が多すぎて自分だけでは社会のニーズに対応できない、
だから、一緒にやってくれる人を増やしたい。そのためにセミナーをするんだ、と言った講師がいた。
彼は「ならどうして雇用して給料を払い、きちんと教育してその仕事をさせないのか」という私の質問に回答できなかった。

昔から言われていることではあるが、目の前の人はなぜ儲かる不動産や株式をなぜ紹介してくれるのだろう?
そんなに儲かるのなら、なぜ自分でやらないのか?
答えは、儲かるのはそれを買った人ではなく、売った人だからだ。

私は可能な限り「できる側」に居たいと思っている。
ノウハウを同業者に売って金を稼ぐくらいなら、その同業者に仕事を渡してお金を払いたい。

例外はある。後輩の教育だ

とはいえ例外はある。同業者に教えることもある。それは後輩の教育だ。

中小企業診断士は資格取得の要件として実習を設けている。
先輩診断士の指導のもと、5、6人のチームとなって中小企業に赴き、ヒアリングを行い提案書をまとめ発表する。

私が中小企業診断士になったのは平成18年だが、その1年前の平成17年にこの実習を受講した。
先生方の親身な指導と、同じ時期に試験に合格した仲間達との議論、私の拙い発表を喜んでくれる中小企業の経営者の姿は、当時の私に大きな衝撃を与えた。

IT企業に勤めていた私は、それまで経営コンサルタントになろうとか、ましてや独立しようとか全く思っていなかった。
資格を取ったのも、ITだけしか知らない中年になるのが怖かったから、経営のことを学ぶきっかけにすぎなかった。

この実習(実務補習と呼ばれている)に参加したあとから、自分の中で「IT企業のエンジニア」とは別の人生を想像することが多くなった。
結果として、今は独立して経営コンサルティング会社の社長をやっている。

さて、私は自分の人生を変えた「中小企業診断士」という資格に恩を感じている。受けた恩は返すべきだ。
そう思い、これまで10回ほど実習講師をさせていただいた。

しかし、ここ数年は講師の依頼を辞退していた。
仕事が忙しくなったのと、中途半端にスレてしまった私よりも、もっと若い中小企業診断士が講師となった方が受講生も嬉しいだろう、と判断したからだ。

来月、久しぶりに講師を努めることになった。
ここ数年中小企業診断士資格は人気で、受講生も多く講師が足りないため、声がかかったのだ。
まあ、予備役で退官した将校が招集されたみたいなものだ。
仕事は相変わらず忙しく、時間を取るのも大変だけれど、この資格を持っていることでこれまで得られた数多くの恩恵に報いるために、依頼を請けることにした。

後輩に同じことをしてやってくれ

他士業ではあるが、私より年配の方と年に数回食事に行っている。
私はその会でお金を払ったことがない。いつもその先輩が出してくれる。
独立したばかりの貧乏なころならいざ知らず、今なら先輩が連れて行ってくれる高級な店の払いもなんとかできる。
「今回は私に奢らせてください」といつも言うのだが、毎回断られる。
「俺はいいから、米ちゃんに後輩ができたら奢ってやってよ」いつもそう言われる。俺もそうやって奢られてきた、と。

私はあまり社交的ではないし、下戸でもあるので、後輩に食事を奢るタイミングがあまりない。
代わりと言ってはなんだが、実習の講師をすることで、士業と言う中世のギルドのような世界に、少しだけ貢献できればと思う。

そして、私の実習を受けた人のうち数人が独立して、経験を積み、いつか講師として後輩を指導してくれるのなら、とても嬉しい。

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