かなり昔の話だ。中小企業診断士に合格して1年ほどたち、勤めていたIT企業を退職、3年弱のコンサル会社勤務を経て独立した。
最初は公的機関の依頼を受けて、補助金のコーディネータや経営相談窓口などの業務に従事していた。
ある時、受験時にお世話になった学校から、受験を目指す人たちに対して講演をしてくれという依頼があった。
受験生のモチベーションアップが目的だろう。私を合格させてくれた学校の先生方への恩返しになればと思い、快諾した。
セミナーでは、中小企業診断士資格を取得しようと思ったきっかけ、受験勉強の苦労、転職から独立までのあらすじをコンパクトに解説し、独立後にどんな業務をしているかを話した。
質疑応答の際、剣呑な表情をした受講者から、今の給与や労働時間について質問があった。真実を素直に回答した。
正直、公的機関からもらえる報酬はそれほど多くはない。また、9時〜18時まで拘束されるような内容だった(2023年の今はかつてよりも自由度が高くなっているようだ、もちろん公的機関によるだろうが)。
質問者は私の回答を聞いて呆れたように、「その労働条件なら、サラリーマンと変わらないではないか、独立した意味はあるのか」と返した。
・・・少し、がっかりさせてしまったようだ。
報酬も時給換算すれば高いように見えるが、社会保険も年金も、給与アップも、ボーナスも退職金もないことを考えれば、一概に有利とも言えない。
実際には仕事が毎日あるわけではないことは、休めるというメリットと、収入が安定しないというデメリットの両面がある。
ずっと公的機関の仕事「だけ」をやり続けてしまうと、質問した方の言うような「サラリーマンと変わらない生活」になる。
違いと言えば、先生と呼ばれること、給料は高いが、ボーナスや社会保障がないことくらいの。
そうではなく、公的機関の仕事で最低限のベースライン収入を確保しつつ、徐々に民間の仕事を増やしていき、いずれその比率を逆転させる。
そうすれば、サラリーマンとは全く異なる人生が拓ける。労働時間は自由に決めていいし、いつ、どこで働いても構わない。十分な報酬も得られる。
中小企業診断士という資格の利点は、公的機関から一定量の仕事をいただける可能性があること。
つまり、独立当初の最も厳しい時期に、ベースラインの収入を比較的容易に確保できるということで、これは凄まじいメリットだ。
他の士業ではこうはいかない。
質問をしてくれた人は、独立すれば即座に、時間に拘束されず、全てを自分で決めることができ、勤め人より高額な報酬がもらえる生活を想像していたのに、私の話に拍子抜けしてしまったのだろう。
残念ながら、即座にはそうならない。移行期間というか、助走期間が必要なのだ。助走を永遠に続ける人もいれば、短距離の助走でジャンプしてしまう人もいる。
もしかしたら、彼はがっかりして中小企業診断士の勉強を辞めてしまったのかもしれない。
当時の私の説明不足が原因だとしたら、残念に思う。