さあ、うちの会社をコンサルしてください

もう10年近く前の話だ。(一部脚色している)

当時クライアントであった社長の紹介で、ある企業に訪問した。
社長はまだ若く、当時の私よりもちょっと年下で、起業3年目とのことだった。
ホームページ製作や店舗や倉庫向けのシステム開発を主な業務としているとのこと。

一通り世間話をされた後、3期分の決算書をわたされた。
5分ほど目を通した。特に不審な点もないものだった。

その後に社長に言われた言葉を今も憶えている。

「さて、これがうちの会社の全てです。何かコンサルしてみてください」

・・・・私は試されているのだろうか?とまずは思った。
もしくは、この社長が会社経営についてあまりにも無知であるか、だ。

決算書だけからわかることはごくわずか

中小企業の決算書だけを見て、何かアドバイスできることはほとんどない。
あったとしてもごく一般論でしかない。

売上高は1行で表されているが、そこからは内訳は何もわからない。
決算書からは商品別、営業担当別、地域別といった分析に必要な詳細は得られないからだ。

人件費もしかり、個別の金額がわからないとコメントの仕様がない。
社員数で割ればよい、というものでもない。期中に入社した社員がいれば、単純に人数で割っても正しい数値は出ない。

業界平均と比較することは有益ではあるが、平均から乖離していることそれ自体が悪ではない。
他者と差別化すれば、必然的に差別化に関連する科目は平均から乖離するだろうからだ。
それを無理に平均に近づければ、せっかくの差別化要因を失うだけだ。

また、決算書だけではなく申告書も見ないとその会社の真実はわからない。
決算書上では減価償却費が計上されていないけれど、申告書を見れば本当は減価償却すべき資産があるのが判明したりもする。

経営コンサルタント(中小企業診断士)は魔術師ではない

これらの内容をわかりやすく説明し、決算書を数分見ただけでは何ら有益なアドバイスはできないと伝えたつもりだが、社長には納得してもらえなかった。
決算書を見せれば中小企業診断士が会社の問題点をズバリと指摘してくれると思っていたようで、少し不機嫌になってしまった。
もちろん、その会社とはそれ以降何の取引もない。

経営コンサルタント(中小企業診断士)は魔術師ではない。予言者でも、占い師でもない。
細かい情報を開示してもらって、社長の「思い」を確認した上で、初めて最適なアドバイスができる。
コンサルと社長が上手く連携したときに初めて素晴らしい成果を出すことができるのだ。
決算書を渡されて「なにか提案して」といったコミュニケーションでは、お互いに不幸になるだけだろう。

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