10年以上前、新自由主義が華やかなりしころ。こう言うセリフを聞いた。
「赤字の会社は社会に価値を提供していない。
さっさと潰すか買収させてその経営資源を
別の企業に使わせるべきだ。」
どこで聞いたのだろう?先輩の診断士か、もしくはコンサル会社時代の上司か。
当時はわたしも「そんなもんかな」くらいにしか思っていなかった。
中小企業診断士の資格を取った後、いろいろな社長、金融機関、公的機関と一緒に仕事をして、いまはそれが明確に間違いだとわかる。
赤字だとしても
最終利益が赤字の企業でも、企業活動は行っている。
仕入業者に代金を払い、従業員に人件費を払い、社会保険を一部負担し、各種の経費を払い、金融機関に金利を払い、固定資産税などの「赤字でも課される税金」を支払っている。
この会社が潰れたとすればどうなるか。
経営資源が100%他の企業に移行できるわけがない。そこでは失われるノウハウや知識もある。
仕入業者は取引先をひとつ失う。連鎖倒産だってあり得る。
金融機関は本来得られたはずの金利を得られず、融資したお金は未来永劫帰ってこない。
従業員は転職すればいいかもしれないが、今よりよい条件で働けるとは限らない。新しい環境に慣れるまではかなりのストレスだろう。
家族にも影響が及ぶかもしれない。
社会全体のマクロレベルでの効率性と、個々人のミクロレベルの幸せは、まったく別の話だ。
赤字の企業はたくさんあるだろう
IT大手だって赤字の会社が多い。ラインやメルカリも赤字だ。けれど、彼らが「価値を生み出していない」と批判されることはない。
なぜ中小企業だけが、たかだか数年赤字になった程度で「価値がない、潰れろ」と非難されなければならないのか?
来年は黒字になるかもしれないのに。
その会社が本当に「価値を生み出していない」のだとしたら、存続できるはずがないのだ。
事業を継続できているのであれば、誰かがその会社の活動を必要としている、ということ。
過去に話を聴いた先輩が今もそう思っているのかはわからない。
ただ私は、経営コンサルタント(中小企業診断士)は「赤字の会社はさっさと潰れろ」などという単純な思考を持ってはいけないと思う。
どうやったら黒字になるのか、どうやったら「より」社会に価値を生み出せるのか、そのために自分に何ができるのかを考え、実行するのが我々の仕事だ。